
「転職」という言葉が頻用されるようになって久しい昨今ですが、数十年前までは職を変えること自体が珍しく、増え始めたのはバブルが崩壊してからのことでした。というのも、日本の戦後は終身雇用制度が定着し、同じ会社に生涯勤め続けるのが一般的だったからです。こうした事実は、現代史が頭に入っている人ならご存知のことでしょう。しかし戦前の雇用形態を知っている人は少ないかもしれません。
戦前を見てみると、日本では間接雇用制度が布かれていました。いわゆる徒弟制度がそれに当たり、若い職人が親方に師事することで、お零れを仕事としていたのです。親方がたくさん受注すれば、それだけ実入りを期待できるのが弟子の労働事情でした。しかし戦後はその慣習が一変し、経営者と会社員という構成になりました。この頃から直接雇用制度が本格化し始め、日本社会に馴染む独自の様式を帯びていったのです。その結末が終身雇用制度であり、しばらくは理想的な雇用制度として受け入れられました。終身雇用の下では大きな問題を起こさない限り解雇される心配はないため、核家族化、都市のドーナツ化現象が進み、社会構造を大きく変えてきました。終身雇用は並行して年功序列と呼ばれる評価基準が採用されたため、給与額が上昇する中を中途退職する人は稀でした。仮に少数名が断行したとしても、彼らは専門スキルを具えたエリートであり、普通の会社員がそれに追随するのは愚行でしかありませんでした。終身雇用が行き渡った社会では転職活動に冷たい視線が投げかけられ、成功する可能性は低かったのです。
高度経済成長期に突入すると、その傾向はさらに強まりました。転職など考えられないほど高額の給与が懐に入り込んでいたからです。しかしバブルの崩壊がそれを一変させました。労働市場は大きく変貌し、それまでは想像もしなかった「解雇」が現実のものとなったのです。
現在の医師の転職事情もそうした波を受けているように感じます。
だからこそ、しっかりと医師の転職先をリサーチして、ご自身が納得出来る形で転職してほしいと思います。