精神科医師から見るうつ病と社会

最近のうつ病患者を見ていて感じるのは社会の構造改革の影響が出ているということです。うつ病の患者はリストラされた方の中からだけではなく、会社に残ることができた方からも出てきているのです。リストラによってダメージを受けるのはなにもリストラされた人だけではなく、残された人にもいなくなった人の分の仕事がのしかかるわけですからリストラされなかった人もダメージを受けます。体の健康だけではなくて、心の健康をどう維持していくのかということが大切になります。メンタルケアという言葉が社会でたくさん使われてくるようになりましたが、それを無しにして経済のことだけを考えて社会をみているとこうした状況に至ってしまうのだろうと思われます。日本では医療と経済を見る目というのが足りないと思っています。疾病による損失は、直接、間接どちらも合わせた損害を考えるとかなり大きなものになっていると思います。年間三万人に上る自殺者、その裏には三十万人の自殺未遂の人がいることを忘れてはいけません。精神科医はクリニックにやってきた患者だけをみるのではなく、このような社会の背景や、社会全体の大きな動きなど来院した患者に関係があるかもしれないバックヤードにも視野を広げていく必要があるのではないでしょうか。うつ病とストレスの関係というものが問題になっていますが、現代のうつ病はストレス社会とは別の次元に深刻化しているのではないかと考えています。うつ病を考えるということは日本全体を考えることになるのかもしれません。そうした中で治療にあたる精神科医には患者の背後にある日本という社会全体にも目を向ける必要があるかもしれません。

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